1(判決の結論)
横浜地方裁判所第5民事部(藤岡淳裁判長)は、本日、建設アスベスト神奈川第3陣訴訟(以下、「神奈川3陣訴訟」という。)の判決の言渡を行った。
判決は、原告38名(被災者単位29名)の内、原告27名(被災者単位22名)の請求を認容し、ニチアス、A&A、MMK、太平洋セメント、ノザワ、バルカー、日本インシュレーション、大建工業に対し、総額1億1768万9000円の損害賠償の支払を命じた。
ただし、判決は、原告11名(被災者単位7名)について、建材メーカーが製造、販売した建材の到達が認められないこと、被災者が屋外作業に従事する中で石綿粉じんに曝露したこと、被災者が解体作業に従事する中で石綿粉じんに曝露したことなどを理由として、原告の請求を棄却している。
2(判決の評価)
建設アスベスト訴訟では、最高裁判所第一小法廷が令和3年5月17日に判決を言い渡しており、建材メーカーに警告義務違反を理由とする損害賠償責任が成立することは裁判所の判断として確立されている。そして、これまで積み重ねられた多くの判決により、職種や現場数、マーケットシェアなどから、個別の被災者ごとに損害賠償責任を負う建材メーカーを特定するという判断手法が確立されている。
今回の判決は、そのような確立された判断枠組みに則った判決として理解できるものである。もっとも、建材メーカーとの関係では、屋外作業あるいは解体作業に従事した被災者について、建材メーカーの損害賠償責任が否定されている。
この点に関して、神奈川3陣訴訟では、民法学者・民事訴訟法学者4名の連名による意見書や1986年当時にNHKによって全国に放映された「NHKクローズアップ」など、新たな証拠を提出した。しかるに、判決がこれらの新証拠に対する明確な判断を示さないまま、最高裁判決を踏襲し、屋外作業あるいは解体作業に従事した被災者との関係では、建材メーカーの損害賠償責任を認めなかったことは、事実と証拠に基づいて判断を行うべき裁判所の役割を放棄するに等しいものであり、断じて許されるものではない。
3(最後に)
建設アスベスト訴訟では、全国での闘いを通じ、国との関係では訴訟を行わずに被害者を救済する給付金制度が創設されるに至っている。
また、建材メーカーとの関係でも、多数の原告側勝利の判決を踏まえ、東京1陣・2陣訴訟、大阪2陣・3陣訴訟において、いずれも建材メーカーの損害賠償責任を広く認める和解案が示される状況が生まれている。
今回の判決で損害賠償の支払いを命じられた建材メーカーにおいては、これまでの判決の到達点、及び、和解に関する現在の状況を踏まえ、無用な控訴などを行うことなく、判決を直ちに受け入れるとともに、今こそ訴訟によらない被害者救済の制度への参加を強く求めるものである。
以上